2025年12月22日、子どもと接する職場で働く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」制度の運用ガイドライン案が、こども家庭庁の有識者会議で了承されました。

「こども性暴力防止法」に基づき導入されるこの新制度は、子どもの安全を守るための大きな一歩であると同時に、事業者にとっては「情報の厳重管理」と「組織体制の再構築」が急務となる重大な経営課題です。

本記事では、企業法務とリスクマネジメントを専門とする行政書士の視点から、ガイドライン案の内容を踏まえ、事業者が今すぐ着手すべき3つの重要ポイントを解説します。

※本記事は2025年12月時点の情報に基づいています。今後の法改正やガイドラインの策定により、内容が変更される可能性があります。最新情報は必ずこども家庭庁等の公式発表をご確認ください。

1. 「日本版DBS」制度の全体像:自社はどちらに該当するか?

まず、日本版DBS(Disclosure and Barring Service)制度の基本的な仕組みを簡潔に確認しておきましょう。この制度は、事業者によって対応が異なる二重構造となっています。

  • 義務化の対象
    • 学校、保育所、幼稚園など、法律で設置が義務付けられている機関では、性犯罪歴の確認が「義務」となります。
  • 任意(認定制度)の対象
    •  学習塾や学童保育、スポーツクラブといった民間事業者については、性犯罪歴の確認は「任意」です。
    • ただし、確認を行うためには、国が定める基準を満たしていることの「認定」を受ける必要があります。
  • 【ここがポイント】
    • 民間事業者の場合、性犯罪歴を確認するためには、国から「基準適合」の認定を受ける必要があります。
    • この認定申請には、適正な管理体制の構築が不可欠です。
    • また、照会できる情報は、特定の性犯罪に関する「前科(有罪判決)」に限定される点に注意が必要です。

2. 事業者が備えるべき「3つの重要対策」


ガイドライン案に基づき、施行までに整備すべき実務事項を整理します。

① 採用フローの再構築:同意取得と就業規則の整備

制度対応の入り口は、応募者からの「同意」です。
トラブルを回避するため、採用選考の初期段階で照会方針を明示する必要があります。

  • 就業規則への明記
    • 照会を行う根拠条項を追加します。
  • 就業規則の不備への対応
    • 同意が得られない場合の選考除外ルールの策定。
  • 専門家との連携
    • 条項案の作成は行政書士がサポート可能ですが、労働法規に関わる最終確認は提携する社会保険労務士と連携し、法的に隙のない整備を行います。

② 「特定機微情報」の厳格な管理体制の構築

性犯罪歴は、最も慎重な取り扱いを要する「特定機微情報」です。

  • 罰則リスクの回避
    • 情報漏洩や目的外利用には厳しい罰則が科されます。
  • 管理ルールの策定
    • 管理責任者の選任、アクセス権限の限定、保管期間の遵守など、膨大なガイドラインに準拠した内部規程の策定が必須です。

③ 犯罪歴確認に留まらない「防止措置」の実施

本制度の本質は「確認」だけでなく「予防」にあります。

  • 初犯対策
    • 犯罪歴がない従業員によるリスクを防ぐための「相談窓口」や「死角を作らない環境整備」
  • 配置転換の判断基準
    • 「性暴力のおそれ」があると判断した場合の業務変更ルールなど、客観的で合理的な判断基準を事前に設けておく必要があります。

3. 制度の限界を補う「積極的リスク管理」が信頼を生む

日本版DBSで確認できるのは「有罪判決が確定した前科」のみです。不起訴事案や示談済みのケースは把握できません。
事業者は制度の限界を正しく理解し、自主的かつ積極的なリスク管理体制を構築する必要があります。

  • 警察との連携フローの確立
  • 継続的なコンプライアンス研修
  • SDGs視点での組織づくり(安全・安心な教育環境の提供)

これらを統合的に進めることで、貴社は「選ばれる事業者」としてのブランドを確立できます。

この制度では不起訴処分や示談で終わった事案は照会の対象外です。

これは、DBSによる確認が「安全の証明」にはならないことを意味します。

むしろ、「うちはDBSを導入しているから安全だ」と過信してしまうと、かえって他のリスク要因を見逃すことになりかねません。

この「誤った安心感」こそが、最も警戒すべき点です。

子どもの安全と事業の信頼を守るためには、形式的な書類整備だけでなく、現場で実際に機能する実務的なリスク管理体制を構築することが不可欠です。

4. 結び:子どもたちの未来と事業の継続を守るために


日本版DBSへの対応は、単なる法令遵守ではありません。
それは、「子どもの尊厳を守り、持続可能な社会に貢献する」という経営姿勢の表明です。

当事務所では、行政書士として以下のコンサルティングを提供しています。

  • 「認定制度」の申請書類作成および手続き支援
  • 個人情報保護・機微情報管理規程の策定支援
  • コンプライアンス(性暴力防止)研修の講師派遣

これらの対策を講じ、保護者や地域社会に対して積極的に発信することは、貴社の安全への取り組みを「見える化」し、他社との明確な差別化要因となります。

施行までの時間は限られています。

「安全」を、貴社の揺るぎない「ブランド」へ

日本版DBSへの対応は、単なる法令遵守ではありません。
保護者様から「ここまで取り組んでいるなら安心だ」という深い信頼を獲得するための、重要な経営戦略です。

私たち大内法務行政書士事務所は、行政手続きの代行に留まらず、SDGsの視点を取り入れた「持続可能で安全な組織づくり」をトータルでサポートいたします。

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