2026年1月施行!中小受託取引適正化法(取適法)の徹底解説と中小企業の対応戦略
いよいよ2026年1月1日から、長年親しまれてきた「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」が「中小受託取引適正化法(取適法)」へと生まれ変わります。
これは単なる名称変更ではなく、原材料費や人件費の高騰が続く現代社会において、中小企業が健全に成長し、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるための、抜本的な取引ルールの再構築です。
この大きな法改正は、多くの企業にとって「ピンチ」ではなく「コンプライアンス体制を強化する最大のチャンス」です。
今回は、取適法の主要な概要と私たち行政書士がサポートできる部分について、詳しく解説します。

下請法から「取適法」へ:法改正の概要と目的
法律名と用語の変更:対等な関係の実現へ
従来の「下請」という用語は、発注者と受注者が対等ではないというニュアンスを与えるとの指摘があったため、法律の名称と主要な用語が見直されます。
| 改正前(下請法) | 改正後(取適法) |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
これにより、取引関係をより対等で公正なものにするという法律の姿勢が明確に示されました。
改正の最大の目的:「構造的な価格転嫁」の実現
近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、中小企業が賃上げの原資を確保するためには、コスト上昇分を取引価格に適切に反映できる環境を整えることが喫緊の課題となっています。
取適法は、まさにこの「構造的な価格転嫁」を後押しする役割を担っています。
ここが変わる!3つの重要変更ポイント
取適法の施行により、特に以下の3点が企業の実務に大きな影響を与えます。
(1) 適用対象の劇的な拡大
これまでの下請法は「資本金」のみを基準としていましたが、取適法では「従業員基準」が新たに導入されます。
これにより、これまでなら実質的な事業規模は大きいものの、資本金が1千万円以下なら親事業者にならない(規制対象外だった)企業も、新たに「委託事業者(発注者)」として法の義務を負う可能性があります。
例えば、製造委託などの取引において、
- 委託事業者(発注側)の従業員が300人超
- 中小受託事業者(受注側)の従業員が300人以下(個人含む)
の場合、資本金に関わらず法の適用対象となります。
御社の取引先で、規模は大きいのに資本金が小さい会社はありませんか?
逆に、御社自身が『資本金が小さいから大丈夫』と思っていませんか?
また、対象となる取引に「特定運送委託」が追加されました。
- 物流2024年問題への対応として、荷主による運送事業者への委託が明確に法の保護対象に加えられました。
- 物品の販売や製造等に関連して発生する運送の委託を指し、物流業界で問題となっている荷待ちや荷役の無償強制といった不公正な慣行の是正を目的としています。
(2) 価格交渉プロセスの義務化:協議に応じない一方的な代金決定の禁止
- 今回の改正で最も注目すべきは、価格協議に応じない一方的な代金決定が禁止された点です。
- コスト増を理由とした協議要請を無視すること自体が違反行為(不当な利益侵害)として明確化されました。
- 中小受託事業者(受注側)が労務費や原材料費の変動を理由に価格の見直しを求めた場合、委託事業者は正当な理由なく協議を拒否することや、必要な説明を行わずに一方的に価格を据え置くことは違反となります。
- この規定は、代金の水準だけでなく、交渉のプロセスが公正であるかどうかに着目しており、委託事業者は協議の経緯を記録し、誠実に対応することが求められます。
(3) 支払い手段の原則的な制限:手形払等の禁止
- 中小受託事業者の資金繰り改善を図るため、手形による支払いが原則として禁止されます。
- さらに、電子記録債権やファクタリングなどの金銭以外の支払い手段についても、支払期日(受領日から最長60日以内)までに代金満額相当の現金を、手数料などを差し引かれることなく得ることが困難なものは禁止されます。(認められません。)
- 経過措置として60日手形が認められる場合もあるが原則は現金です。
- また、今回の改正で振込手数料を受注者に負担させることが法的に明確に禁止(減額扱い)となります。
行政書士が中小企業の取適法対応を具体的にサポートできる業務内容
取適法対応は、多岐にわたる書類作成と社内ルールの整備が必要であり、予防法務の専門家である行政書士の役割が極めて重要になります。
【フェーズ1:リスク診断・体制整備】
① 法適用対象の再判定と管理台帳の作成支援
新たに導入された従業員基準や特定運送委託により、自社の取引が適用対象となるか否かを正確に診断します。
- 従業員数の正確な把握
- 常時使用する従業員数(賃金台帳に基づき算定)の確認方法を指導し、取引先ごとの適用関係を一覧化した「取適法適用管理台帳」の作成を支援します。
- 取引先への確認支援…電子交付への対応
- 発注内容等の明示を、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず電子メール等の電磁的方法により行う際の運用ルールと電子データの雛形作成を支援します。
- 承諾の有無にかかわらず電子メール等の電磁的方法により行う」とありますが、これは今回の改正の隠れたメリットです(以前は受注者の承諾が必要でした)。
- これを機に、FAXや口頭発注をやめ、メールや受発注システムへの完全移行を提案しましょう。それがコンプライアンス遵守の証拠(ログ)にもなります。
② 契約書・発注書フォーマットの改訂
委託事業者に課せられる4つの義務を確実に履行するための書類を作成します。
- 発注内容等の明示義務(4条明示)
- 旧3条書面にあたる発注書のテンプレートを、法定記載事項(代金の額、支払期日、支払方法など)を網羅したものに改訂します。
- 価格協議条項の追加
- 義務化された協議プロセスに対応するため、原材料費等の変動時に協議を行う旨を明記した価格協議条項の契約書への追加を支援し、トラブルを予防します。
- 支払期日ルール
- 受領日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定める義務を契約書に反映させます。
【フェーズ2:実務運用・交渉支援】
③ 価格交渉の証拠化(記録作成)支援
「協議に応じない一方的な決定」による違反を防ぐため、交渉プロセスの透明化をサポートします。
- 交渉資料の作成支援
- 中小受託事業者が価格交渉に臨む際、客観的な根拠資料(労務費や原材料費の上昇データなど)を準備するのを支援します。
- 議事録・記録簿の作成
- 委託事業者側が協議の経緯、拒否した理由、説明内容などを電子的に記録し、7条記録(旧5条書類)として2年間保存する体制の構築を支援します。
- 価格協議申入書の作成
- 中小受託事業者の立場から、法的な根拠に基づき価格協議を能動的に求める「価格交渉申入書」の起案をサポートします。
④ 物流特化型(特定運送委託)の契約整備
- 料金体系の明確化
- 運賃とは別に、荷待ち時間や荷役作業に対する対価を契約書に明確に記載するよう指導し、契約書を改訂します。
【フェーズ3:有事・行政対応】
⑤ 行政調査対応と自主申告(リニエンシー)のサポート
万が一、違反の疑いが生じた場合の対応を支援します。
- 報復措置の禁止
- 中小受託事業者が公取委や事業所管省庁(国土交通省など)へ違反を申告したことによる不利益な取扱いが禁止されています。申告しやすい環境づくりのための体制整備を助言します。
- 自主申告の支援
- 委託事業者が調査着手前に自ら違反行為(例:不当な減額)を申し出て、かつ迅速に不利益を是正する措置を講じた場合、勧告や公表をしないという仕組み(リニエンシー的措置)があります。この際の「違反事実報告書」や「再発防止計画書」の作成を支援し、企業のレピュテーションリスク回避をサポートします。
【フリーランス保護法対応(付加価値サービス)】
⑥ハラスメント・配慮義務体制の構築支援
取適法(下請法)にはない、フリーランス保護法特有の義務に対する対応を支援します。
- ハラスメント対策
- 発注事業者に義務付けられたハラスメント相談体制の整備や、外部窓口の規定策定を支援します。
- 育児・介護配慮ルールの整備
- 6ヶ月以上の継続契約があるフリーランスからの育児・介護の申出があった際の対応ルールを、契約書または社内規定に盛り込む支援を行います。
フリーランス保護法と取適法の違い(比較図解)
2024年11月施行のフリーランス法との住み分けも図解通り正しく整理されます。

2026年1月1日に施行される「中小受託取引適正化法(取適法)」と、それに先立ち2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス保護法)」は、どちらも取引の公正化を目指す新法です。
しかし、保護対象や適用基準には大きな違いがあり、企業は取引先によってどちらの法律が適用されるかを峻別する必要があります。
| 比較項目 | 🆕 フリーランス保護法 | 🏢 中小受託取引適正化法(取適法/旧下請法) |
| 保護対象(受注者) | 従業員を雇用していない個人事業主や一人社長の法人 | 法人を含む中小受託事業者全般 |
| 発注者(委託者)の条件 | 資本金ゼロでも対象。従業員を使用している事業者(資本金基準なし) | 資本金または従業員数に基準あり |
| 規制対象となる取引 | 全業務が対象(コンサル、講師、配送、制作などすべて) | 5つの限定された取引類型(製造、修理、特定運送、情報成果物作成、役務提供) |
| 支払い期日の制限 | 受領から60日以内 | 受領から60日以内 |
| 独自の義務 | ハラスメント対策・育児介護配慮義務 | 価格交渉プロセス(協議)義務化、手形払いの禁止 |
フリーランス法との重複適用
- 相手が「従業員を雇っていない個人事業主(フリーランス)」である場合、フリーランス法と取適法の両方が適用される可能性がありますが、原則としてフリーランス法が優先適用される等の整理があります。
- 相手が個人の場合はフリーランス法、法人の場合は取適法と単純に分けず、相手の『従業員の有無』を確認するフローを業務に入れましょう。
最大の注意点は「資本金要件の撤廃」と適用拡大
- フリーランス保護法には、取適法(下請法)のような資本金基準がないことです。
- 従来の「下請法?うちは資本金1,000万円以下だから関係ない」という認識は、フリーランス保護法の施行により通用しなくなりました。
- たとえ従業員数が少なく資本金ゼロの小規模法人や個人事業主であっても、フリーランス(従業員を雇っていない個人)に業務を発注すれば、発注者として 法の義務を負います。
- この適用範囲の拡大は、これまでコンプライアンス体制が手薄になりがちだったIT・Web業界、物流(軽貨物)、スクール運営など、業務委託依存度の高い業界に特に大きな影響を与えます。
行政書士がサポートする「予防法務」と契約書改訂
中小受託取引適正化法(取適法)の施行は、中小企業経営者にとって、取引の公正性を確保し、企業の持続的成長に不可欠な価格交渉力を身につけるための大きな機会です。
私たち行政書士は、この法改正を契機として、契約書の作成・整備(予防法務)、社内コンプライアンス体制の構築、そして価格交渉の法的根拠資料の作成を通じて、クライアント企業の経営の安定と発展に貢献できます。
まとめ:いわき市・双葉郡の事業者様は今すぐチェックを

「うちは資本金が少ないから下請法は関係ない」というご認識は、2026年1月以降通用しなくなります。
特に、従業員数が多い医療法人、社会福祉法人、学校法人や、持株会社形式で資本金を抑えている企業は、新たに規制対象となる可能性が極めて高いです。
リスクが顕在化する前に、一度ご相談ください。
【ご参考】中小受託取引適正化法(取適法)適用判定チェックリスト
STEP 1:取引内容の確認(何を委託していますか?)
以下の業務を外部へ委託(外注)していますか?
[ ] 製造委託(規格品、部品、金型などの製造)
[ ] 修理委託(物品の修理)
[ ] 情報成果物作成委託(ソフト開発、デザイン、コンテンツ制作など)
[ ] 役務提供委託(運送、倉庫、メンテナンス、コールセンターなど)
[ ] 【NEW】特定運送委託(荷主が運送事業者へ直接委託する配送・輸送)
POINT: 従来対象外だった「荷主(自社製品を運んでもらう発注者)」も、物流2024年問題対策として規制対象に追加されています。
STEP 2:受注者(相手)の確認(誰に発注していますか?)
発注先の事業者はどのような体制ですか?
[ ] A. 従業員を雇用している(法人・個人事業主問わず)
[ ] B. 従業員を雇用していない(代表者のみ、フリーランス、一人社長)
判定:
Aの場合 →「取適法(本法)」の適用対象となる可能性が高いです(STEP3へ)。
Bの場合 → 原則として「フリーランス保護法」が適用されます。 ※ただし、相手が従業員なしでも、発注内容によっては取適法が適用されるケースもあるため注意が必要です。
STEP 3:発注者(自社)の規模確認(貴社はどちらに該当しますか?)
ここが今回の改正の最重要ポイントです。
[ ] 資本金基準: 資本金が一定額(例:3億円または5,000万円など取引類型による)を超えている。
[ ] 【NEW】従業員基準: 資本金は小さいが、従業員数が多い(例:製造業等で300人超、サービス業等は100人超など)。
注意!
これまでは「資本金1,000万円以下の親会社」を作れば規制を逃れられましたが、改正後は「資本金が小さくても、従業員数が多ければ(例:300人超)」規制対象(委託事業者)とみなされます。
判定結果まとめ
- STEP 1 にチェックが入る。
- STEP 2 で「A(従業員あり)」に該当する。
- STEP 3 の「資本金」または「従業員数」のいずれかの基準を超えている。
- すべてに当てはまる場合、「委託事業者(発注者)」として、以下の義務を負います。
- 価格協議の義務化: コスト増を理由とした協議要請を無視・拒否してはいけません。
- 手形払いの原則禁止: 60日以内の現金払いが必須になります。
- 振込手数料の負担: 発注側が負担しなければなりません。
- 契約書の書面化(メール可): 発注内容を明確に記載した書面等の交付が必要です。

