「そろそろ個人事業から法人化したいが、要件が複雑でわからない」

「企業として農業に参入したいが、農地を買うべきか借りるべきか悩んでいる」

農業の法人化は、経営規模を拡大し、次世代へ事業を継承するための大きな一歩です。

しかし、法律上の区分や要件は複雑で、誤った選択をすると許可が下りないだけでなく、将来的な融資や補助金で不利になる可能性もあります。

本記事では、行政書士およびSDGs導入コンサルタントの視点から、「農地所有適格法人」と「一般の農業法人」の違い、それぞれの最新要件、そして法人化がもたらす経営メリットを解説いたします。

そもそも「農業法人」とは?

法律上、「農業法人」という厳密な定義はありません。

一般的に、稲作や畜産、園芸などの農業を営む全ての法人を指しますが、農地法の実務上は以下の2種類に大別されます。

  • 農地所有適格法人(旧:農業生産法人)
    • 農地を「所有」できる法人(農地法第2条第3項の要件を満たす)。
    • 主に農家が経営規模を拡大する場合に選択されます。
  • 一般の農業法人(解除条件付貸借)
    • 法律上の定義は「農地所有適格法人以外の法人」です。
    • 農地を「借りて(リースして)」営農する法人。
    • 一般企業が農業参入する場合のスタンダードです。
      • 通常の株式会社、NPO法人、合同会社などが、農地の権利を取得(購入)せず、賃借権(リース)を設定して営農する形態を指します。
    • 平成21年の農地法改正以降、要件が緩和され、株式会社やNPO法人など多様な主体が参入しています。

「農地所有適格法人」になるための必須要件

農地法第2条第3項に基づき、以下の全ての要件を満たす必要があります。

  • ① 法人形態要件(どんな会社か)
    • 株式会社(※株式の譲渡制限規定があること=非公開会社)
      • ※通常の「株式会社」でも、株式の譲渡制限規定が定款になければ認められません。
      • 注意:上場企業のような公開会社は、原則として認められません。
    • 合同会社、農事組合法人、合名会社、合資会社
  • ② 事業要件(何をするか)
    • 主たる事業が農業であること。
      • 売上高の過半が、農業およびその関連事業(加工・販売・農家民宿など)であること。
  • ③ 構成員要件(誰が議決権を持つか)
    • 総議決権の2分の1超を、農業関係者(農地の権利提供者、常時従事者、JAなど)が占めていること。
      • ※近年、食品関連企業等による出資規制の一部緩和がありますが、原則は「農業者主導」です。
    • 【2025年4月施行の重要改正】
      • 新たに創設される「農業経営発展計画」の認定を受けることで、農業関係者の議決権割合が「1/3超」まで緩和される特例措置がスタートします(食品事業者等との連携が条件)。外部資本との提携を考える場合は要チェックです。
  • ④ 役員要件(誰が経営するか)
    • 役員の過半数が、法人の農業に常時従事すること(原則年間150日以上)。
    • 役員または重要な使用人(農場長など)のうち、1人以上が農作業に従事すること(原則年間60日以上)。
    • 原則として「農業のプロ」が経営権を握る必要があります。
      • 外部企業の完全子会社にする場合などは、次の「一般の農業法人」のスキームを検討します。

出典・参照

農林水産省:農業法人の設立について
農林水産省:農地所有適格法人の要件

「一般の農業法人」の「必須要件」


企業が農地を借りて(リースして)」だけであれば、農地所有適格法人のような厳しい構成員要件(出資規制)はありません。

以下の要件(農地法第3条第3項)を満たせば、どんな業種の企業でも参入可能です。

ただし、最終的には農業委員会の許可が必要です。

  • ① 解除条件付き貸借であること
    • 賃貸借契約書に、「農地を適正に利用していない場合には、契約を解除する」旨の条項を必ず盛り込む必要があります。
  • ② 地域との調和(あつれき防止)
    • 周辺の農地利用に支障を及ぼさないことが求められます。
    • 例:
      • 無農薬栽培エリアで農薬を散布しない。
      • 地域の水利組合のルールを守るなど。
  • ③ 業務執行役員の確実性
    • 法人の役員等のうち1名以上が、その法人の行う耕作の事業に常時従事すること。
    • ※「農地所有適格法人」のように、役員の過半数が農家である必要はありません。

出典・参照

農林水産省:企業の農業参入について

農地の売買・貸借に関する制度について

利用すべき「農地中間管理機構(農地バンク)」

企業が個別の農家と交渉するのは大変です。そこで国は、農地の貸し借りを仲介する公的機関「農地中間管理機構(農地バンク)」を各都道府県に設置しています。

4. 法人化による「経営メリット」

法人化は事務負担が増える反面、経営の持続可能性(サステナビリティ)を劇的に高めます。

メリット1:税制面の優遇(経営の体力を残す)

  • 法人税の適用
    • 個人の累進課税(最大45%+住民税)に対し、中小法人は所得800万円以下の部分で税率約15%等が適用されるため、一定の所得を超えると節税効果が期待できます。
  • 欠損金の繰越控除
    • 赤字を最長10年間繰り越し、将来の黒字と相殺可能です。
    • 天候リスクのある農業において、経営安定化の命綱となります。

メリット2:資金調達力の強化

  • スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)
    • 「農地所有適格法人」かつ「認定農業者」であれば、日本政策金融公庫の長期・低利融資(実質無利子化措置の対象となる場合もあり)を活用できます。
    • 金利は毎月変動し、利子助成措置も年度予算によります。
  • 補助金採択
    • 多くの補助金事業において、法人化や「人・農地プラン」への位置づけが評価の加点要素となる傾向にあります。

メリット3:SDGs経営の実践

  • ゴール15「陸の豊かさも守ろう」
    • 耕作放棄地の再生や農地の適切な管理は、企業の社会的責任(CSR)として高く評価されます。
  • ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」
    • 一般法人として異業種(IT、飲食、観光)が参入することで、農業に新たなイノベーションを生み出せます。

徹底比較!2つの農業法人スキーム

比較項目① 農地所有適格法人② 一般の農業法人
(賃借・リース方式)
おすすめな方本腰を入れて農業を行う方
農家が規模拡大する場合
異業種から参入する企業
農地所有にこだわらない場合
農地の権利所有・賃借賃借(リース)のみ
設立難易度
(役員・出資要件が厳しい)

(どんな業種でもOK)
主な税制優遇手厚い
農地取得時の税軽減など
標準
通常の法人税制
融資(スーパーL)対象対象外
(通常融資を利用)

具体的な節税額のシミュレーションなどは税理士法に抵触する可能性があるため、詳細は税理士へご確認下さい。

ここが経営の分かれ道

1. 「資産」として農地を持つか(SDGsゴール15「陸の豊かさも守ろう」)

「農地所有適格法人」の最大のメリットは、農地を会社の資産として保有できる点です。

さらに、農地購入にかかる登録免許税や不動産取得税の軽減措置が受けられるため、長期的に大規模経営を行うならこちらが有利です。

一方、「一般の農業法人」は農地を持てないため、資産計上はできませんが、撤退時のリスク(農地処分の手間)が低いという身軽さがあります。

2. 資金調達の「切り札」が使えるか

農業界で最も有利な融資の一つと言われる「スーパーL資金(認定農業者向け)」は、原則として「農地所有適格法人」が対象です。

超長期・低金利で数億円規模の設備投資を行う場合、この資格の有無が資金繰りを左右します。

3. 参入障壁とパートナーシップ(SDGsゴール17)

「一般の農業法人」は税制・融資面では劣りますが、「役員要件の自由度」が圧倒的な強みです。

IT専門家やマーケティング担当者を自由に役員に据えることができ、異業種のノウハウを農業に持ち込むイノベーションに適しています。

【行政書士からのアドバイス】

「私の場合はどうなる?」と思ったら

法人化の要件は複雑で、個々の状況(現在の売上、所有農地、家族構成)によってベストな選択肢が変わります。

インターネットの情報だけで判断せず、まずは専門家の診断を受けてみませんか?

「自分の計画している法人は、農地を持てるのか?」

「定款(会社のルール)はどう作ればいいのか?」

ここが最初の難関です。

当事務所では、農業経営のビジョンをお聞きし、最適な法人形態の選定から設立手続き、その後の許認可まで一貫してサポートいたします。

まずは「法人化診断」から、お気軽にご相談ください。